●前田弘 (まえだ・ひろし)
1965年生まれ。実業団チーム、ガンバ大阪、ジェフ市原(現ジェフ千葉)のトレーナーを経て、2007年から日本代表チームアスレティックトレーナーに就任。日本サッカー協会スポーツ医学委員会委員、日本オリンピック委員会強化スタッフ。
前田:
トレーナーの仕事といえばマッサージを思い浮かべる人が多いと思いますが、代表チームのトレーナー業務は多岐にわたります。傷害の予防や治療、アスレティックリハビリテーションの管理はもちろん、ドクターと共に選手の心身両面の医学的なサポート行ったり、コーチと共にフィジカルコンディションの管理やアドバイスも行います。この他、メディカルチェックに関する情報の収集やデータの管理、メディカルルームの運営と管理などもトレーナーの仕事です。
前田:
はい。日本サッカー協会に所属する選手・スタッフの健康維持・管理を医学面でサポートするための組織で、各領域のドクターから構成されています。月に1回、メディカルチェックやドーピング、傷害等に対するフォロ―などについて話し合っています。
前田:
私たちの最大のミッションは選手のコンディションを維持することですから、傷害の予防には細心の注意を払っています。選手がケガをした場合は早期復帰を最優先にアプローチを行いますが、再受傷はさせないということにも留意しなければなりません。育成年代の選手に対しては、後遺症を残させないというミッションもあるんですよ。選手たちにセルフケア、セルフコンディショニングに関する気づきを促すことも重要な仕事です。
前田:
難しいのは、選手との距離感ですね。メディカルスタッフとして選手たちと向き合っているとお互い親しくなりますが、選手が我々に依存するような関係になってはいけないので、指導者としての顔も持ち合わせていなければなりません。オープンマインドといいますか、選手たちの気持ちをしっかりと受け止めて、より良い方向に導くというか……そのあたりのさじ加減は難しいですね。それを肝に銘じるために我々独自に「トレーナーに求められるイレブン」という自主規律を設けています。
前田:
日本サッカー協会の理念やチームの目標などがありますが、その土台は皆さんと同じで、一般人としての社会的モラルです。代表に選ばれた選手たちは競技のレベルだけでなく、人間的にも素晴らしい人たちなので、我々スタッフに対しても非常に協力的です。選手とは随分年が離れていますが、見習うべきことが多々あります。自分もあのような人間になれたらいいなと(笑)。大選手になればなるほど周囲の人間にも気を配る。試合の後、私たちスタッフにもごく自然に「お疲れさま、ありがとう」と言葉をかけてくる。だからあのようなステージに立っていられるんだと思いますね。