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ドイツ・ブンデスリーガ フランクフルト所属の日本人トレーナーに
ドイツでの経験についてお聞きしました。

ドイツ・ブンデスリーガの古豪アイントラハト・フランクフルトには、2014年からメディカルのスタッフの一員として活躍するトレーナー・黒川孝一さんがいる。地元で接骨院を営んでいた彼は、なぜ活躍の場をドイツに移したのか。さらに日本で発売された『バトルウィンWグリップ』について、その魅力を聞いた。
黒川孝一

『バトルウィンWグリップ』は
日本人トレーナーがワクワクするアイテム。

インタビュー・文
細江克弥
Katsuya Hosoe

――トレーナー人生を変えた出会い

ドイツ・ブンデスリーガの古豪アイントラハト・フランクフルトには、日本を代表するプロサッカー選手長谷部誠がいる。

5月に終了した2017-18シーズンは、過去5年で最高位となる8位でリーグ戦をフィニッシュ。国内カップ戦のDFBカップでは決勝でバイエルン・ミュンヘンを破り、試合中に2度もポジションを変えてフル出場した長谷部は、クラブにとって30年ぶりのタイトル獲得に大きく貢献した。

このクラブには、長谷部の他に2人の日本人がいる。1人は、2017年夏にサガン鳥栖から加入したMF鎌田大地。そしてもうひとりは、2014-2015シーズンからこのクラブに籍を置くメディカルスタッフ、黒川孝一さんだ。長谷部や鎌田はもちろん、世界各国から選手が集まるクラブで絶大な信頼を寄せられ、トレーナーとしての確固たる地位を築きつつある。

奈良県出身の黒川さんは、サッカーに明け暮れた学生時代の経験から「トレーナーになりたい」という将来像を描いていた。高校卒業後は専門学校に通い、鍼灸師と柔道整復師の国家資格を取得。在学中から整骨院で働き、やがて独立して地元・奈良に整骨院を開業した。

「学生時代に自分がお世話になったように、スポーツをしている子どもたちと向き合いたいと考えていました」

それから数年後、黒川さんは自身のキャリアを大きく変える人物と出会うことになる。

「海外スポーツ鍼灸プロジェクトを運営されている小谷泰介さん。彼はドイツでとても有名な監督であるトーマス・シャーフさんと友人で、紹介してもらえることになりました。シャーフさんは長く率いたブレーメンというクラブの監督を辞めたばかりで、家族や知人と一緒にバカンスに出かけていました。そのタイミングで、彼の別荘を訪問することになって(笑)」

シャーフ本人はもちろん、彼の妻や娘、娘の彼氏や知人への施術は、黒川さんにとって最初の“テスト”だった。言葉は「日本語しか話せない」状態だったが、紹介してくれた知人の手助けを得てできる限りのことをした。シャーフさんからは「関係者を紹介しよう」という言葉をもらって別れたが、それから数週間後、あるニュースを機に黒川さんの運命が変わる。

「トーマス・シャーフ、フランクフルトの新監督に就任」

再び知人を通じて連絡を取り、黒川さんはシーズン開幕前のキャンプに帯同することを許された。そうして“第2のテスト”をクリアした黒川さんは、2014年10月、メディカルスタッフの一員として正式に迎えられた。

「キャンプを経て、開幕戦まで帯同して、一度日本に戻りました。それから連絡をもらったのですが、実は少し、ウジウジとていたところもありました。言葉もまともにできないのにドイツに行っていいのか。安定した収入を得られるのか。家族のことは? と。背中を押してくれたのは妻です。彼女は『やりたいなら行って来い』『ダメだったら帰ってくればいい』と言ってくれました」

自らが経営する整骨院を閉め、友人にしばしの別れを告げて、黒川さんはドイツへ渡った。

――長谷部誠の“アシスト”を得て

シャーフ新監督が連れてきたトレーナーとしてクラブに迎えられた黒川さんには、“だからこそ”の苦労もあった。

「鍼灸師ということで、“特殊な治療をする人”という目で見られていました。メディカルスタッフも、それぞれがクラブと契約を結んでいるプロばかり。だからヤキモチもあったと思います。言葉ができない日本人に何ができるんだと。選手のケアに関するスケジュールはリーダーが組むのですが、僕はなかなか治療をさせてもらえず、名簿に選手の名前がない時期がしばらく続きました」

1年目から難しい状況に直面した黒川さんを陰でアシストしたのが、同じシーズンからフランクフルトに加入した長谷部誠だった。もっとも、“気遣いの人”である長谷部は露骨なサポートはしない。そこに彼の優れた人格が表れている。

「長谷部選手は、最初は別のトレーナーに治療を任せながら、たまに僕のところに来てくれるんです。例えば、別のトレーナーの前に列ができている時に、『俺はクロでいいよ』と言いながら。きっと、同じ日本人だからといって“群れる”ようでは、実力が伝わらないと考えてくれたのでしょう。本当に救われました。生活面でもお世話になりましたし、チーム内でどう振る舞うべきかのアドバイスもたくさんもらって……。長谷部選手がいたから、僕もクラブに残ることができた。それは間違いないと思います」

最初は鍼治療に専念しながら“できる範囲で”治療に当たっていると、次第に何人かの選手が自ら進んで黒川さんの下を訪れるようになった。黒川さん自身も選手たちに積極的に声をかけ、少しでも早くチームに溶け込むように努めた。すると、選手から「クロを試合に帯同させてほしい」という要望が上がり、1年目からメディカルスタッフの一員として試合に帯同するようになる。

「最初の頃は『なんで俺はここにいるんやろ?』と不思議に思うこともありました(笑)。ただ、日本でもスポーツの現場で“使える技術”を学んできたつもりだったので、ある程度の自信はあったんです。もの足りない部分もたくさんあったと思いますが、とにかく全力で、選手たちと向き合いました」

時間と重ねて選手たちとの信頼関係を築き、次第にスタッフからも認められる存在になった。1年目、2年目と着実に実績を積み重ね、3年目の途中からはようやくテーピングを巻かせてもらえるようになった。

「言葉が少しずつ上達してきて、選手との信頼関係も少しずつ築いてきて、ゆっくりと時間をかけてできることを増やしていきました。選手からは『クロは巻かないのか? 練習しろよ』という言葉をかけられたのですが、やはり、ドイツと日本では“巻き方”が違うので、認めてもらうまでに時間がかかりました」

――ドイツで出会ったテーピング

確かに、“巻き方”の違いは大きかった。

日本ではいわゆる“ホワイト”の下にアンダーラップを巻くのが通例だが、ドイツにはその文化がない。代替品として一般化しているのが、バンデージとアンダーラップを足して2で割ったようなアイテムで、もちろんフランクフルトでもその商品を利用していた。

「当時の日本にない商品だったので、最初は驚きましたし、『面白そうだな』と思いました。僕は柔道整復師でもあるので打撲などの外傷についても学んでいたのですが、まずは『打撲の圧迫固定に使えるな』と。テーピングとしては、バンデージに近い性質を持っているので、これ自体に固定力がある。さらに“ホワイト”を巻くということは、ドイツではかなり固定した状態が好まれるんだなということを感じました」

治療や予防に対する基本的な技術は大きく変わらない。ただし、ドイツと日本では考え方や捉え方が大きく違うため、この新しいアイテムの活用法にも注意が必要だった。

「気をつけなければいけないのは、アンダーラップや包帯の感覚で巻くと、商品そのものに厚みがある分だけ全体が膨張してしまうこと。それから、布に近い感覚だから巻きやすいのですが、テンションを間違えると“くるぶし”の周りにスペースができてしまいます。ただ、圧迫力と伸縮力に優れているので、その後に巻く“ホワイト”の巻き方によっては、選手個々の状態に合わせたテーピングが可能である。それは大きなメリットであると感じました」

めくれやすいアンダーラップの場合、“ホワイト”ですべてを覆わなければテーピングが崩れる。しかし、この新しいバンデージを利用した場合は“ホワイト”で全体を隠す必要がない。例えば、“ホワイト”はかかとを「スターアップ」で固定し、「フィギュア8」を巻く。この新しいバンデージは商品自体に圧迫力があるため、それだけ「OK」とするのが通例だという。だからこそ、選手個々の状態や好みによって幅広く対応できる。

「日本人トレーナーに向いている商品だと思いました。やっぱり、日本人は工夫して発展させるのが得意ですから。日本にいる僕の知人にも、すでに活用しているトレーナーがいます。彼は細かく切って、指の関節を補強するテープとして活用していました」

――トレーナーとしての“野心”

この新しいバンデージはブンデスリーガでプレーする日本人選手にも好評で、選手の多くが「なくてはならないアイテム」として活用している。

「一度使うと、その感覚がとても良くて『これがないとプレーできない』という選手もいるほどです」

そうした噂やニーズの高まりは日本にも届き、昨年秋、ニチバンはこの新しいバンデージと同機能の新商品『バトルウィンWグリップ』を発売した。スポーツに携わるトレーナーや選手の声を通じて、このアイテムを活用しようとする動きは広まりつつある。

「スポーツに力を入れている先生方から『使ってみたよ』という声を多く聞きました。日本人のトレーナーは、皆さんとても器用で、柔軟性がある。だから、この商品を手にすると『どうやって使おうか』とワクワクすると思いますよ。ドイツで一般化しているから良いというわけではありませんが、魅力的な商品であることは間違いないと思います」

“固定”にはメリットとデメリットがある。しっかりと固定すれば動きを制限できるが、それはプレーそのものを制限することにもつながる。トレーナーの仕事は選手個々の状態に応じた“バランス”を探ることでもあるから、『バトルウィンWグリップ』を用いてその可能性を広げられるメリットは大きい。

さて、束の間の休息を経てドイツに戻れば、黒川さんにとって5年目となる海外でのシーズンが幕を開ける。

「本当にいい経験をさせてもらっていると思います。でも、危機感しかありません。僕より優れた治療家さんはたくさんいるし、僕自身がしっかりと成長しなければ、クラブの看板を取り除いた時に何もなくなってしまいますから。野心としては……あまり大きなことは言えないのですが(笑)、ヨーロッパの最前線で戦う選手たちの姿を間近に見ていると、目の前に大きなチャンスがあることを実感するんです。だから、僕自身もいつか……いや、まだそんなことを言える器ではないのですが(笑)」

“世界”で戦っているのは選手だけではない。黒川さんのように舞台裏で奮闘する裏方の活躍が、サッカー界における“日本”の価値を高めていることは間違いない。

黒川孝一
【プロフィール】
黒川孝一 
(くろかわ・こういち)
1982年8月23日生まれ、奈良県出身。大阪医専メディカルトレーナー学科、平成医療学園専門学校を経て鍼灸師・柔道整復師の国家資格を取得。2009年に黒川鍼灸整骨院を開業(現在は閉院中)したが、縁あって2014年からドイツに渡り、アイントラハト・フランクフルトのトレーナーとしてチームに帯同。サッカー界注目の若手トレーナー。