セルフコンディショニング
新潟アルビレックスBBの現役レジェンドである五十嵐圭選手に
コンディショニングとテーピングの関係性について聞きました。
(取材日=2025年11月27日)

テープを巻くと「よし!」と思える
その感覚を大事にしている
- 細江克弥
- Katsuya Hosoe
- 千葉 格
- Itaru Chiba
“今の自分”の最適解を見つける
――現在45歳。キャリア23年目。ものすごい“数字”だと思うのですが、ご自身の中ではどのように受け止めていますか?
いやあ……やっぱり長いですよね(笑)。普段から気にしているわけではないので「改めて振り返ると」という感じではあるんですけれど。自分でも気づかないうちにこれだけ長く現役を続けさせてもらってきたという思いと、いまだにコートに立たせてもらっていることへの感謝の気持ちでいっぱいです。
――若い頃からそういうキャリアをイメージしていた?
いえ、まったく。大学を卒業して、日立サンロッカーズの一員として当時のトップリーグだったJBLスーパーリーグで戦うことになって、でも当時はほとんどのチームメートが選手兼社員の二刀流でしたし、30歳で引退して社業に専念するという流れが当たり前だったんです。僕自身は26歳になる年からプロ契約を結ぶ形になったのですが、そこからはもう「結果を出さなければ生き残れない」という思いでやってきたので……改めて振り返ると、そんな厳しい世界でよくここまで生き残ってこられたなと自分でも思います。
――プロに転向後、5度の移籍を経験し、5つのチームを渡り歩いてきました。
20代の頃は「30歳まで頑張ろう」、30歳になったら「35歳までやれるかもしれない」、35歳になったら「40歳までやりたい」という感じで、少しずつ目標を伸ばしていきました。移籍を繰り返す中で2度も戦力外通告を受けているので、そういう意味では「結果を出さなければ生き残れない」というプロ意識はむしろ年々高まっていったところがある気がするし、モチベーションとしては、2016年に地元・新潟に戻ってきたことが大きかったと思います。自分が生まれ育った県のクラブだからこそ、いろいろなものを背負って結果を出したいと思ったし、その思いで5シーズンプレーさせてもらえたことが本当に大きかった。その後3年間は群馬でプレーすることになりましたが、2023年からまた新潟に戻ってきて、大きな役割を託されていることが今の自分のモチベーションになっています。
――2025年夏からは新潟アルビレックスBBの「選手兼社長補佐兼強化部長補佐」という肩書で活動されています。
クラブを立て直すためにそれまでとは違う役割を担わせてもらっています。ただ、コートに立った時の自分はそれこそデビューしたばかりの頃からまったく変わっていません。僕自身、デビュー戦で当時大ベテランの域に達していた佐古賢一さん(現・シーホース三河シニアプロデューサー)と対戦させてもらったんですよ。あの時、「年齢なんて関係ない」と思ったんです。今の自分も本気でそう思っているので、もしかしたら、それが長くキャリアを続ける秘訣なのかもしれません。
――あくまでプレーヤーとしての自分自身を疑わないということですね。

プロ選手としてコートに立っている以上、何歳であっても“チームを勝たせること”が唯一の仕事だと思っているので。それができない、そのための身体を維持できないと感じたら引退しなきゃいけないと思います。それがいつ来るかはわかりません。明日かもしれないし、2年後、3年後かもしれない。だけど、自分の中に「まだやれる」という感覚があって、選手としての自分に自信があるならやり続けるしか選択肢はないと思っています。
――こうして面と向かって話している分には、まったく年齢を感じさせません。
ありがとうございます(笑)。もちろん、衰えを感じる瞬間はいくらでもあるんです。ただ、たとえ1歩のスピードで若い選手に劣ったとしても、タイミングやポジショニング、駆け引きの部分でそれを帳消しにして勝つことだってできる。そういうところで勝負しながら、コンディショニング面でいろいろな工夫をしたり、トライ&エラーを繰り返してこの年齢になっても日々反省しながらやっています。
――“今の自分”としっかり向き合いながらその時々の最適解を見つけるというスタンスで取り組んでいる。
まさにそのとおりです。しかも、その作業がすごく楽しいと感じているんです。痛み止めを打ってコートに立つ日もあるけれど、その上で、自分自身の状態を見極めながら「どこまでできるか」を探り当てる。自分でコントロールしながら限界を広げていこうとするチャレンジを続けられていることが、自分の自信につながっている気がします。
「巻いているから大丈夫」の感覚が大事
――キャリアを長く続けてきた五十嵐選手のコンディショニングについて教えてください。日頃からどんなことを意識していますか?
意外に思われるかもしれないんですけど、実は……特別なことはほとんど何もしていないんです。気をつけているのは食事や睡眠時間のことくらいで、でも、だからといってストイックに意識しているわけでもなく……そんな感じなんですよね(笑)。
――ものすごく意外です。
よく言われます。食事については奥さんにいろいろと工夫してもらっています。今は新潟で一人暮らしをしているので、オフは必ず群馬の自宅に戻って、妻が準備してくれる作り置き料理を持って帰るんです。そのおかげでバランスのいい食事が摂れていると思うんですけど、意識しているのはそれくらいで、むしろストレスを溜めないことを優先的に考えています。もちろんタイミングは意識するけれど、好きな時に、好きなものを食べるほうが僕自身はプレーに集中できる。人それぞれだと思うんですが、アスリートにしてはかなり“フリー”なほうだと思いますね。
――アスリートのコンディショニングといってもいろいろな方法がありますよね。いろいろな選手からお話を聞くと、フィジカルやメンタルのコントロール方法は“自分にあった答え”を見つけることが大事であると感じます。
僕もそう思います。自分の場合はプロテインなどのサプリメント類についても30代半ばから一切摂らなくなりましたし、そういう意味では年齢を重ねるごとに意識することが減っていっている気がします。もちろん、そういう考え方とは真逆の人もいますよね。自分と年齢が近い選手で言えば……同学年の田臥勇太選手(宇都宮ブレックス)のコンディショニングは僕とはぜんぜん違うと思います。たぶん、ものすごくストイックに節制していると思いますよ。
――なるほど。ケガの対応や予防について、五十嵐選手はどのような意識を持っていますか?

テーピングの使い方は20代とは大きく変わりました。若い頃はテープを一切巻きたくないタイプだったんですけど、30代になってから、足首の重度の捻挫で苦しんだ時期があって。まずは右足、それが治ったと思ったら左足という感じで捻挫を繰り返すようになって、それからずっとテープを巻くようになりました。巻くことが当たり前になると、今度は巻かずに身体を動かすことが心配になるじゃないですか。今となっては軽く遊ぶ程度の運動でも「テーピングを巻きたい」と思うくらいなんです。
――日常的にテーピングをしている選手の中には「お守りみたいなもの」と言う人も多くいますね。
その感覚はよくわかります。僕の場合、プレーする時は必ず足首をガチガチに固めているんですが、その“ガチガチ感”が自分の心の中にある不安を取り除いてくれる気がしていて。「巻いているから大丈夫」という感覚って、アスリートにとってすごく心強いと思うんですよね。
――「ガチガチに固める」と言っても本当に繊細な違いというか、選手によってまったく異なる“好み”みたいなものがありますよね?
個人差は大きいと思います。僕の場合は新潟に来てからずっと阿部(理一)さんというアスレチックトレーナーにテーピングをお願いしているんですけど、30代前半にあれだけ苦しめられていたのに、新潟に来てからの通算6年半で足首のトラブルが一度もないんですよ。テーピングには巻き方の相性みたいなものがあると思っているんですけど、僕の場合は「阿部さんがいないとバスケできません」というくらいに頼り切っています。
――なおさら“お守り”としての意味も強くなりますね。

本当にそのとおりです。「今日は巻かなくていいよ」と言われても「いや、一応巻いておきたい」と思うし、やっぱり、この年齢になるとたったひとつのケガが選手生命にかかわってくると思うので。
だからこそ、僕の場合は足の状態が悪くなくても、予防やお守りとして足首のテーピングは欠かさないようにしています。
――プロアスリートの立場から、テープの使い方について10代のバスケットボールプレーヤーたちへのアドバイスはありますか?
予防という意味では、プロであっても、アマチュアであっても、子どもであっても、少しでも多くの知識を持っているほうがいいと思います。テーピングもそのひとつ。今はSNSによって本当に多くの情報を得られる時代になっていると思うので、テープの種類や使い方、巻き方についての知識があれば、それをいつか自分のパフォーマンスに役立てられる日が来るかもしれません。
選手として結果にこだわり続けたい
――ちなみに、足首以外の箇所にテープを巻くことはありますか?

もちろんあります。これもかなり個人差があると思うんですけど、やはりバスケットボールの場合は指のケガが少なくないんですよね。突き指や脱臼はプロ選手でも起こりやすいので、そういう場合にテープを巻くことで補強したり、痛みを和らげようとする選手もいます。ただ、手でボールを扱うスポーツでもあるので、特に手や指の繊細な感覚を大事にしていて「できればテープを巻きたくない」という選手もいます。
――五十嵐選手の場合は……。
どちらかと言うと前者です。テープを巻いた時に「少し気になる」と思ったとしても、それがシュート精度に影響しないタイプなんですよ。つまり、鈍感なんです(笑)。ケガをしている時のほうがシュートが決まる確率が高いというデータもあったくらいですから。
――それくらい“人それぞれ”ということですよね。
そう思います。だからこそ、トレーナーとの相性だったり、プレーする上での心持ちとして「これで大丈夫」と思えることが大事なんですよね。その方法は個々によって違うし、テープを巻くことはそういう感覚を得るためのひとつの手段になると思います。だって、ケガが完全に治っているのに、ケガをしていた時のルーティーンとして「テープを巻いたほうが落ち着く」という選手もいるくらいですから。
――心のスイッチとしての役割も担っている。
試合前にテープを巻き終わると「よし!」という気になりますからね。僕はその感覚を大事にしています。
――最後に、今後のビジョンについて聞かせてください。

公表していないケガもあるのでゼロというわけではないのですが、これまで、選手生命を脅かすほどの大きなケガを一度も経験することなくキャリアを続けてきました。コンディショニングという意味では決して意識が高いほうではないし、やっていることと言えば予防的な意味も込めてのテーピングくらい。そういう意味では、もともと頑丈な身体を持っているんだと思います。でも、だからこそ“続ける”ことだけに満足することなく、常に結果にこだわる選手であり続けたいと思っています。プロとしてコートに立っている以上、「あの年齢であれだけやれるんだ」と思われる選手にならなきゃいけないと思うんです。




