セルフコンディショニング
男子バスケットボール日本代表3選手にお話を伺いました。
(取材日=2019年7月30日)
僕たちが、日本のバスケを変える。
- 細江克弥
- Katsuya Hosoe
- 千葉 格
- Itaru Chiba
結果を残して期待に応えたい
――いよいよワールドカップの開催が近づいてきました。現在の男子日本代表は「史上最強チーム」と注目を集めていますね。
篠山竜青 もちろんワクワク感は高まっていますが、やはり世界の舞台で戦うのは強いチームばかりなので、不安もあるし、恐怖心もあります。合宿が始まったばかりの現時点では、いろいろな感情が入り混じっているという感覚です。
竹内譲次 完全に同じ気持ちです。八村塁選手がNBAドラフトの1巡目で指名されたことで、日本のバスケがものすごく注目されていますよね。それによって日本代表に対する注目度もかなり上がっていることは、このチームの中にいる自分が一番強く感じています。注目度だけじゃなく、期待度もかなり上がっていると感じるので、その期待に応えるいいゲームをしたいという思いが強くなっています。
竹内 ワールドカップではグループリーグでトルコ(FIBAランキング17位)、チェコ(同24位)、アメリカ(同1位)と対戦するのですが、これまでのキャリアではそういう強豪国との対戦経験がほとんどなかったので(日本は48位)、本当に、この機会を大事にしたいと思います。
――田中選手は3人の中では最も若い27歳ですが、プレッシャーは感じていますか?
田中大貴 やはり、ワールドカップだけではなく、その後のバスケットボール界を盛り上げるきっかけにしなければいけないと思うので、出場する僕らが何か大きなものを持ち帰れる、大きなことを教わる、そういう大会にしなきゃいけないと思います。そういう意味でのプレッシャーは、少し感じています。
チームの雰囲気が変わりつつある
――2016年のBリーグ開幕以降、バスケットボール人気は着実に高まってきました。
篠山 そういう意味では、やはり八村選手のNBAドラフト指名によって、また強い追い風が吹こうとしていることは間違いないと思います。そのインパクトがどれくらいのものかについてよく聞かれるのですが、他のスポーツで例えることもできないし、自分たちへの影響を考えるよりも、まずは“いちファン”として感動しました。
田中 本当にそう。だからこそ、日本代表の勝利が大切ですよね。日本のスポーツ界は全体的に代表チームが出場するビッグゲーム、ワールドカップやオリンピックなどの関心度が高いので、バスケットボール界においても日本代表が結果を残すことが大事なのかなと思います。
竹内 やっぱり、“流れ”を感じますね。僕は長い期間、日本代表の一員としてプレーさせてもらってきたのですが、これほど期待度が高い時代はなかった。だからこそ、今の代表チームにいる僕らが結果にこだわらなければいけないと思うんです。
――ニック・ファジーカス選手の帰化、渡邊雄太選手(NBAメンフィス・ハッスル)と八村塁選手(NBAワシントン・ウィザーズ)の加入によって、ファンが結果を期待したくなるメンバーが揃いつつあります。
田中 ただ、現時点ではニック、雄太、塁が全員揃った状態で試合をしたことはないので、どういうチームになるかはこれからの準備次第だと思います。彼らが加わることによって、日本がこれまで苦労してきた“高さ”が改善されることは間違いないですね。そこは僕自身も楽しみにしています。
竹内 それから、ひと昔前と比べると、チームの雰囲気は明るくなるかもしれません。雄太や塁は合流したばかりですが、彼らがいるだけで、なんとなくムードが明るくなる。そんな気がします。
篠山 そうですね。今回は地力でアジア予選を勝ち抜いてワールドカップの出場権を獲得したけれど、それまでは結果が出ない苦しい時間を過ごしてきました。(竹内)譲次さんの世代や(田中)大貴や比江島(慎)の世代は、そういう状況の中でも腐らずにやってきた。ニックや雄太や塁が入って自信をつけてきたチームに、そういう悔しさを知っているメンバーがいることはとても大切なことだと思います。だからこそ、チーム全体の雰囲気としてはみんなが「フォア・ザ・チーム」の精神を持っているし、いい関係性を築いていると思います。
ケガによって変わった“ケア”への意識
――それぞれの“ケア”に対する意識についてお聞きしたいのですが、まずは、ケガの予防や防止について、篠山選手が特別に意識していることはありますか?
篠山 実は、“冷やすこと”に対してめちゃくちゃ強いこだわりを持っていて、練習後や試合後は必ず、10分から15分間のアイスバスを徹底しています。きっかけは、5年前にジャンプ時の着地に失敗してスネ(脛骨)を骨折してしまったことなんですが、専門家から「足首や膝(ひざ)、股関節の可動域が大きければ回避できたかもしれない」と指摘されたことで、いろいろと考えるようになりました。
――“冷やすこと”に加えて、関節の可動域を広げるトレーニングにも力を入れてきたということですね。
篠山 はい。今年31歳になったのですが、24、5歳の頃の自分と比較しても、今のほうが身体が動く、キレがあるという実感があります。結果的には、すごくいいきっかけになりました。
竹内 僕は「走れない選手がケガをしやすい」というアドバイスを受けたことがあって、何となくの感覚として「確かに」と思えるところがありました。竜青のように“冷やすこと”に対するこだわりはないのですが、“しっかり練習すること”が“走れる身体を作ること”につながり、結果的にケガしにくい身体を作ることにつながると考えています。
田中 僕も竜青さんと同じで、しっかりと冷やすことを心がけているのでアイスバスにも入ります。僕自身は大きなケガをしたことがほとんどないのですが、バスケットボール選手の場合は捻挫の予防などで足首にテーピングを巻いている人も多いですね。僕は気になってしまうので特別なことがない限り巻かないのですが、ここ2年くらいはハムストリングスを痛めることもあって、自分の身体としっかり向き合うようになりました。
マイナスをプラスに変えるアスリートの強さ
――では、“ベストコンディションを作る”という意味で、他に心がけていることはありますか?
篠山 譲次さんが言ったとおり、いいコンディションを作るためにしっかりとしたトレーニングを積むことが大事だと思うのですが、そのため体重を増やさないことを心がけています。本当はお酒が好きなんですが(笑)、今はかなりコントロールしている。これもスネのケガがきっかけです。正直なところ、それ以前はコンディショニングに対する意識は低かったと思います。今になって振り返ると、もし大きなケガをしてしまっても、そういう時期をどう過ごすかがとても大切ですよね。僕自身は、トレーナーさんの言葉で一気に気付かされたし、「もっと成長できる」と思えましたから。
竹内 僕もそう思います。大きなケガをしたことがあるのですが、思い返せば、その時はやはり体重オーバーでした。当時は「当たり負けしない身体を作る」という風潮があって、バスケットボール界全体として「身体を大きくしよう」という空気感があった。でもやっぱり、ケガを経験して、いろいろな情報が入ってくる中で、“適正体重”の重要性を知ったんです。今はそれを強く意識しているし、さきほども言ったとおり、まずはちゃんと走れる身体を作ることが大切であると考えている。食事もそう。適正体重と走れる身体を維持するために、適切なタイミングで適切なものを食べることを意識しています。
田中 ケガだけではなく、アスリートとしてはどんなことに対してネガティブ思考ではなくポジティブ志向、マイナスをプラスに変換する力が求められている気がします。まさに今は、バスケットボール界に“いい流れ”が来ていて、だからこそ結果を残さなければならないというプレッシャーがある。でも、そういう状況をポジティブに捉えて、未来を担う子どもたちにとってもプラスとなる何かを残したいなと。今回のワールドカップでは、世界に出てもやれるんだということを証明できるように頑張りたいと思います。
――本当に、大きなチャンスですよね。
篠山 間違いないと思います。僕らは今の日本代表にいる選手として、日本におけるバスケットボールの地位、価値を高めたい。今の自分は、それができるポジションにいると思うので、楽しみたいですね。
竹内 僕はチームの中では年齢が上のほうなので、まずは、今回のワールドカップや来年のオリンピックに出場できるのであれば、全力でプレーして楽しみたいと思っています。日本バスケットボール界は大きなチャンスをつかんでいると思うけれど、つかんだだけで終わりにしたくない。これを通過点として、一歩ずつ上を目指していきたいと思います。